海外在住者の頭を悩ませがちな「永住権」と「外国籍取得」。大坂なおみ選手やノーベル賞受賞者などでも、国籍問題が話題になることが多いですよね。
今回は気になる日本の国籍事情について、
- 外国籍を取得したら、日本の国籍はどうなる?
- 外国籍を取得しても、黙っていればバレないって本当?
- バレたらどうなる?
- 現在進行中の日本国籍喪失に関する裁判
この4つの内容を中心に分かりやすく紹介したいと思います。
MM外国籍取得の関連記事も合わせてどうぞ。市民権取得(外国籍取得)のメリットは、カナダのケースで記載していますが、他国共通のメリットがほとんどです。
外国籍を取得し、日本国籍を喪失したら。デメリットは?長期帰国や年金は?
カナダの市民権(カナダ国籍)取得のメリットは?取得条件や申請方法は?
この記事の目次
外国籍取得による日本国籍の取り扱い
日本は二重国籍を認めていないため、外国籍を取得した場合、日本国籍を手放すことになります。ただ、外国籍の取得が、①自分の意志によるものか、②自動的に付与されたものか、この2つの違いで取り扱いが異なります。
自己意志で外国籍を取得した場合
まず、海外移住者などが現地の市民権を取得し、外国籍を得るパターンから。
日本人が自分で希望して外国籍を取得した場合、日本政府への届出の有無に関係なく、外国籍を取得したと同時に、日本国籍を失います。本人が手放したつもりがなくても、実際にはもう日本国籍はありません。そのため、二重国籍保持者にもなり得ません。
国籍喪失届を出さなかったら?
外国籍を取得した場合、1か月以内、海外在住者の場合は3か月以内に「国籍喪失届」の提出が義務付けられています。
もし届を出さなかった場合、国籍は無いにも関わらず、日本の戸籍が残ることになります。この状態だと、住民票が取得できたり、パスポートも取得できる可能性もあります。
この辺りがグレーゾーンなんですよね・・。
でも実際には、外国籍を取得した時点で、「元日本人」扱い。「偽装日本人」と呼ばれることすらあります・・。
在留資格の無い外国籍の人が、日本人だと偽りながら、違法に日本に居住し、パスポートを取得している状態なので、罰則もあります。旅券法では、国籍喪失者が、日本のパスポートを使った場合、5年以下の懲役か300万円以下の罰金が課せられる可能性があります。
ただ、詳しくは後述しますが、実際のところは罰則が言い渡された例はありません。
「国籍はないが、戸籍がある」グレーゾーン
日本国籍はないのに、戸籍は残っている状態。このグレーゾーンにいる方が非常に多いと思われます。
国籍喪失届を提出していなかったために、日本の戸籍が残っており、日本のパスポートもありました。ただ、ノーベル賞受賞で国籍問題が明るみになり、その後は日本のパスポートは失効したそうです。
私はノーベル賞の際に米国の市民権を取ったことを話した。すると二重国籍は問題だと日本のパスポートは更新できなくなり、取り上げられた。同僚の在米ドイツ人研究者はノーベル賞受賞を機に特例で二つ目のパスポートが贈られた。ドイツも二重国籍を認めていない。日本の社会はノーベル賞に狂喜するが、日本の政府は官僚主義だ。この対応の差に同僚たちも驚いていた
出生や婚姻で自動的に外国籍取得した場合
お次は、本人の意志に関係なく、国籍が付与されたケース。
例えば、国際結婚カップルのお子さんや、出生地主義の国で出生したお子さん。そして、結婚により配偶者の国籍を自動付与された方など。いずれのケースも、本人の意志とは関係なく、自動的に国籍取得しているため、日本政府は期間限定で二重国籍を認めています。
出生地主義を取っている国や、婚姻により国籍が付与される国は下記の通り。
出生地主義(条件付き含む) | アメリカ、カナダ、アイルランド、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、ドイツ、オランダ、メキシコ、フランス、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、アルゼンチン、ベネズエラ、ウルグアイ、エクアドル、グレナダ、ザンビア、タンザニア、パキスタン、パラグアイブラジル、ペルー |
婚姻により妻に夫の国籍を付与 | アフガニスタン、イラン、エチオピア、サウジアラビア、ヨルダン、ジンバブエ |
婚姻により妻に夫の国籍を付与(拒否可能) | ガボン、セネガル、コートジボワール、中央アフリカ、チャド、トーゴ、ドミニカ共和国、マリ、ルワンダ など |
22歳、または外国国籍取得後2年以内に、国籍の選択が必要
ただし、二重国籍でいられるのは22歳まで。もしくは、外国籍を取得してから2年まで。期日までに国籍の選択に迫られます。
こちらは法務省のHPから引用した、国籍の選択方法に関する画像です。日本国籍を保持したければ、外国国籍を手放す、もしくは、「日本国籍の選択宣言」をする必要があります。
二重国籍の抜け道
実は、この「日本国籍の選択宣言」する方法が、二重国籍の抜け道にもなっています。
なぜなら、選択宣言する際に、外国国籍の離脱の有無は関係なし。国籍法では、日本国籍の選択宣言をした後に、外国国籍の離脱に向けて「努力」すればよいという表現にとどまっているのです。
第十六条 選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければな
らない。法務省 国籍法より
これが非常に曖昧なところ。本人が『離脱手続きに向けて動いている』と主張すれば、努力していることになります。また、国籍離脱の努力をしていなくても、国籍法違反にはなるものの、罰則はありません。
こんな曖昧な定義にとどまっている理由には、国籍離脱を認められない国もあり、外国の国籍法までは関与が難しいことが挙げられます。例えば、アルゼンチンでは国籍離脱の制度がありません。(ブラジルは国籍離脱が認められています)
そのため、自動的に国籍を付与された人は、法的には二重国籍がほぼ認められているようなもの。
大坂なおみ選手の国籍問題も、この国籍選択宣言により、アメリカ国籍を離脱することなく、日本人としてオリンピックにも出場できる、と言われています。
日本国籍の選択宣言の方法
日本国籍の選択宣言を行うには、役所に備え付けの「国籍選択届」を提出すればOKです。
日本居住者の場合は、特に証明書や添付書類は不要で、本籍地、もしくは、所在地の市区町村役場に届出を提出します。海外在住者の場合は、日本の大使館・領事館でも提出可能ですが、戸籍謄本の提出が必要です。
「国籍選択届」は役所や領事館に備え付けられており、提出には手数料も不要です。詳しくは法務省のページにてご確認ください。
外国籍を取得しても、黙っていればバレない?
繰り返しになりますが、自動的に外国国籍を付与された方は、日本国籍の選択宣言をすることで、ほぼ合法的に二重国籍が認められています。問題は、自分の意志で外国籍を取得した人です。
外国籍を取得しても、日本政府には分かりえないこと。黙っていればバレないよ。
本来は外国籍を取ると同時に、日本国籍は無くなるわけですが、こんな話も聞きませんか?
確かに、日本政府が外国国籍の取得を知る術はありません。しかし、何かのきっかけで、外国国籍を取得したことが明るみに出ることがあります。
有名人ほどバレる
先ほど紹介したノーベル賞を受賞した中村修二さんの場合、ノーベル賞という名誉のために、米国籍を取得したことが分かり、日本のパスポートが失効しています。
また、海外在住者の場合、外国国籍を取ったことが領事館や大使館の方の耳に入り、その後のパスポート発行が認められなくなるケースもあります。現地で名の知れた方ほど、こういったケースがあり得るようです。
パスポート更新時にバレる
現在、海外の日本大使館や領事館でパスポート更新する場合、現地滞在資格(ワークビザ、永住権など)の添付が必要です。外国籍となっている場合、このような証明書が提出できないため、パスポートの更新ができません。
日本帰国中であれば、パスポート更新は可能になりますが、パスポートの期限によっては、日本入国時に外国籍パスポートを使わざるを得ず、バレることになります。
また、パスポート申請時に使われる一般旅券発給申請書にも、「外国国籍を取得していますか?」という確認項目があります。
「はい」と答え、帰化による外国国籍取得であると選択すれば、もちろんパスポートの更新はできません。日本の戸籍を抹消するために「国籍喪失届」の提出も促される、もしくは、戸籍法に従って、日本の行政に通達を行い、強制的に戸籍抹消の手続きが取られることもあります。
外国籍を保持しているにもかかわらず、「いいえ」と答えれば、パスポートは作成できるかもしれません。しかし、虚偽の申請をしたことになるので、バレた際には旅券法の規定により、処罰の対象になってしまいます。
パスポートの履歴でバレる
パスポートの出入国の履歴に連続性が無いことでも、外国籍を取得していることがバレることがあります。
例えば、私が住んでいるカナダ。カナダ国籍保持者がカナダに出入国する際は、カナダのパスポートを提示する必要があります。
一方、日本も、日本国籍保持者は日本のパスポートで入国する必要があると、出入国管理法で定められています。住民票を入れたり、健康保険の手続きを希望する場合も、日本のパスポートで入国する必要があります。
つまり。日本とカナダの移動で、2つのパスポートを使い続けていると、日本のパスポートには【日本入国→日本出国】の記録しか残らず、日本出国後に行方不明状態になるわけです。このような記録から、法令違反が摘発される可能性もあります。
(毎回アメリカ経由で日本帰国することで、スタンプの連続性を保っている人もいますが・・)
遺産相続の手続きでバレる
海外在住者が日本の親族の遺産相続する際にも、外国籍取得の事実は隠しきれません。なぜなら、永住権保持者と外国籍保持者では、相続手続きの申請書が異なるから。
外国籍保持者の場合は、相続人であることの証明に、失効した日本のパスポートなどを元に発行される「居住証明書」を使用します。
一方、永住権で海外に在住している場合は、住民票に変わる「在留証明書」を使用します。この在留証明書の取得には現地の滞在資格(ビザ、PRカード等)の提示が必要なので、ビザの提示ができない時点で、外国籍取得がバレてしまいます。
これは、ブログ読者の方から教えていただいた経験に基づく情報です。その方は正式に国籍喪失届を出していたので、滞りなく遺産相続手続きができたそうですが、もし偽って日本の戸籍を残していたら、親族の不幸という悲しみのさなか、余計な不安を抱えてしまうことになってしまいますよね・・。
日本国籍喪失や二重国籍がバレたらどうなる?
パスポートの不正利用など、国籍関連の違反行為が日本政府にばれてしまったら、どうなのでしょう?想定されるケースごとに、取り扱いや罰則をまとめました。
Case | Penalty |
---|---|
日本国籍喪失者が、国籍喪失届を提出しなかった | 国籍法違反だが、罰則は無し。国籍喪失届の提出を促される、もしくは戸籍法により戸籍抹消の可能性も。 |
日本国籍喪失者が、日本のパスポートを所持し続けた | パスポートは失効。旅券法違反により、5年以下の懲役か300万円の罰金だが、実際の起訴例は無し。 |
日本国籍喪失者が、日本のパスポートを使って日本に入国した | パスポートは失効。旅券法違反により、5年以下の懲役か300万円の罰金だが、実際の起訴例は無し。入管法違反により、退去強制&5年間の入国禁止や収容の可能性もあるが、実際の起訴例は無し。 |
日本国籍喪失者が、生まれた子供の出生届を提出し、日本国籍を取得した | (両親ともに外国国籍になっていれば)子供の日本国籍は喪失、誤って登録されていた子供の戸籍も抹消。 |
二重国籍者が日本国籍の選択宣言したのに、外国籍離脱の努力を怠った | 戸籍法に違反だが、罰則は無く、努力義務を促される程度。日本国籍の強制剥奪もなし。 |
二重国籍者が選択期限までに国籍を選択しなかった | 法務大臣から選択勧告を受ける。1か月以内に選択しないと日本国籍は喪失するが、実際の勧告例は無し。 |
これまでは国籍に関する違反は、非常に緩い基準で取り締まられてきました。
罰則はない、もしくは罰則はあれど、実際の起訴例はなく、国籍が剥奪された例もありません。だからこそ、「言わなければバレない。バレても大丈夫」という風潮になってしまうのでしょうね。
でも、罰則が法律で定められている以上、今後も罰則を受けないという保証はありません。現状の国籍法では、外国籍取得による国籍喪失は免れようがなく、不正にパスポートを取得するなどは、避けるべき行為です。
国籍はく奪条項違憲訴訟
最後に、現在進行中の日本国籍喪失に対する訴訟についてご紹介です。
現在、自分の意志で外国籍を取得した人が、日本国籍を喪失することを定めた国籍法11条1項に対し、海外在住者8名が訴訟を起こしています。原告団は、国籍剥奪は、日本国憲法で定められている「国籍離脱の自由」に矛盾していると主張しています。
国籍法11条に対する訴訟は今回が初めてだそう。
もし国籍法の内容が違憲だと認められれば、海外在住で日本国籍を失った人の多くが、国籍を回復することになります。これから外国籍を取得する人も、日本国籍を手放すことなく、二重国籍となることができます。外国籍取得の障害が無くなり、国際社会で活躍する日本人が増えることは、結果として日本にとっても有益なことですよね。
私自身、カナダに永住権で住み始めて5年になります。
永住権はこの国に「永住」できるわけではありません。なにかあれば即刻、在留資格を失う、不安定な権利だと感じています。できることなら、カナダの市民権を取得したいと思いますが、日本国籍を無くすということは本当に本当に大きな障壁です。
それは、日本に長期滞在しづらくなるという実質的な壁ではなく、精神的な壁。日本にいる親を裏切るような、そして、非国民的行為を働くような・・。
この大きな障壁を無くそうとしてくれている今回の訴訟。海外在住者の気持ちを代表して、訴訟を起こしてくださっている8名の原告団の方には、感謝の気持ちでいっぱいです。原告団のホームページでは、署名活動や活動資金を集めるクラウドファンディングも行われていますが、私も少額ながら支援させていただきました。
もし訴訟内容に賛同される方がいらしたら、ぜひ原告団のホームページをチェックしてみてくださいね。
長い記事に最後までお読みくださった方、どうもありがとうございました!