カナダの政治について、どれくらいご存知ですか?
私は!!
──ほとんど知りませんでした(笑)
今回、色々と勉強する機会があったので、カナダの政治を図解と共に、簡単に、分かりやすくまとめてみました。
この記事の目次
カナダの政治のしくみ
カナダの政治体制には、立憲君主制、連邦制、そして、議会制民主主義という、3つの特徴が挙げられます。言葉で聞くと、難しいですよね・・。まずは政治の仕組みを図で見ていきましょう。
このように、カナダの政治体制は、行政権を持つ内閣、立法権を持つ下院・上院両議会、そして司法権を持つ最高裁判所の三権から構成されており、いずれも国家元首がその長となっています。
それでは、一つ一つ、詳しく見ていきます。
国家元首とは?
カナダの政治制度で忘れてはならないのが、国家元首の存在です。国家元首とは、国の首長を意味します。つまり、国のトップ、一番偉い人。
アメリカのような共和制の国では、大統領が国家元首となりますが、君主制であるカナダでは、君主(Monarch)であるカナダ国王/王女が国家元首となります。
──ん??カナダに国王なんていたっけ!?
そう思われる方もいるかもしれません。
カナダ国王=イギリス連邦の国王・女王
カナダはかつてイギリス帝国の一部でした。現在はイギリスからは独立しているものの、イギリス連邦に加盟しているため、カナダ国王=イギリス連邦の国王となるのです。
現在のイギリス連邦の国王は、ご存知の通り、エリザベス女王2世です。そのため、カナダでは国家元首であるエリザベス女王2世の肖像画や銅像が至るところに掲げられているというわけですね。
イギリス連邦国王の代理としての総督
しかし、いくら国家元首であるとはいえ、イギリスの国王・王女が、遠く離れたカナダの議会政治やセレモニーに毎回参加するのは不可能です。
そのため、国家元首であるイギリス国王・女王の代理として、「総督」という役職が設けられています。
総督の人選
総督はイギリス国王・女王の代理であることから、長年イギリス系白人男性が選出されていました。
しかし、近年は性別だけでなく、フランス系やアジア系など、人種も多様に選出されていて、カナダの多文化主義を反映しています。
現在のカナダ総督
2021年7月からは、メアリーサイモン氏がカナダ総督に就任しています。
サイモン氏は、先住民出身で、元外交官であり、長年先住民の人権問題に取り組んできた人物です。カナダ初の先住民総督として、先住民問題への前向きな変化をもたらすことが期待されています。
総督の役割は形式的
国家の長としての役割を果たしている総督ですが、カナダは君主の権限が憲法で限定されている立憲君主国でもあります。イギリスと同じですね。
そのため、実際には、国家元首(=総督)と言えど、政治的な判断は行わない慣習で、権限と役割は形式的。日本の天皇陛下のような「象徴的存在」であると言えます。
総督の役割には下記のものが挙げられますが、
- 首相の任命
→実際には、下院第一政党の党首が選出 - 議会の招集
→実際には、首相の助言 - 上院議員の任命
→実際には、首相が助言 - 上院・下院を通過した法案を承認
→実際には、否決することなく、そのまま承認
このように、「実際には」という言葉ばかりが並ぶことになります。
勲章授与などの役割も
画像出典:カナダ総督HP
しかし、総督には立法上の「形式的」な役割だけでなく、来賓との接見や勲章の授与と言った役目もあります。
2009年に日本の天皇陛下がカナダを訪問した際には、当時の総督であるミカエルジャン氏(写真中央右)が歓迎していました。
カナダ議会のしくみ
次に、カナダの議会のしくみを見ていきましょう。
カナダの議会は上院・下院の2つに分かれています。日本の国会が衆議院と参議院に分かれているのと似ていますね。
でも、実は、日本の国会とはちょっと違った特徴もあるのです。
下院とは?
まず一つ目が、「The House of Commons」と呼ばれる下院です。庶民院とも訳されることがあります。
下院議員は日本と同じように、地域ごとの選挙区から選挙で選ばれた人たちで構成されています。
そのため、下院議会室は民主主義の聖地のような場所。イギリス同様に、国王一家は下院議会室には立ち入ることができません。
下院の議席数
下院の議席数は338議席。
この議席数は基本的には人口に比例していて、人口の多い州ほど選出される議員の数も多くなっています。つまり、人口の多い州ほど権力を持っているとも言えますね。
ちなみに、議席数が多い州を順に挙げると、1位オンタリオ州(121議席)、2位ケベック州(72議席)、3位ブリティッシュコロンビア州(42議席)となっています。
下院の第一政党の党首がカナダ首相
そして、カナダの首相は通常、この下院議院の第一政党から選ばれています。
2015年以降は自由党が第一政党となっており、自由党党首であるジャスティントルドー氏が首相になっています。
上院とは?
もう一つの議会が「Senate」と呼ばれる上院です。こちらは元老院とも訳されますね。
上院議会室には、先ほどご説明した国家元首である君主席があります。写真の一番奥に写っている立派な席が王座ですが、実際には総督が座ります。
カナダの上院の特徴
さて、この上院議会、いくつか日本にはない特徴があるんです。
まず、一つ目の特徴。それは、議員の選出は国民の選挙ではなく、任命制であること。議員は首相の助言のもと、総督が任命しています。
任命制というと、一体どんな人たちが選ばれているのでしょう?
基本的には、州・準州を代表するような人選です。政治家だけでなく、実業家、教授、科学者、芸術家、地域のリーダーなど多岐にわたります。
また、人種や言語、宗教、性別などの多様性も重要視されています。もちろん、先住民族からも上院議員が選ばれています(2021年現在の先住民族出身議員は8名)
そして2つ目の特徴が、上院は地域を反映した議会であるという点です。
人口の多い地域が権力を持つことがないよう、議席数は地域毎に平等に与えられており、どの地域も一定の権力を有することを意味しています。
・・とは言え、実際のところは、地域はウェストカナダ、オンタリオ、ケベック、マリタイム(アトランティック)の4つに分けられており、それぞれが24議席。1949年にカナダ連邦に加盟したニューファンドランドラブラドール州が6議席、3つの準州がそれぞれ1議席。
これらは、カナダ連邦成立当時、もしくは州・準州が連邦に加盟した際に決定された分配なので、現在の州に対する分配として考えると、『地域毎に平等』とは言いがたいものです。
最後の特徴が、解散がないこと。
議員に選ばれると75歳の定年まで、ずーーっと上院議員として活動します。下院総選挙で、政党勢力が大きく変わっても、上院議員には関係なし。
そのため、上院では長期間に渡って、安定的に法案を審議することができます。
連邦制
さて、ここまで紹介したように、カナダの政治は、
- 国家元首の役割が憲法で限定されている立憲君主制
- 下院・上院で法案を審議する議会制
といった2つの特徴がありました。さらに、もう一つ、忘れてはいけないカナダの政治の特徴に、「連邦制」がります。
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連邦政府と州政府が独立
カナダは10の州と3の準州から構成されている連邦国家です。
日本は一つの政府しか持たない単一国家ですよね。国の下に地方自治体がぶら下がっています。
しかし、連邦制であるカナダでは、連邦政府(国)と州政府には、上下関係が成り立ちません。それぞれ、管轄する分野・権力が異なるだけ。国と州は対等の立場にあると言えます。
州政府も法律を作ることができる
さらには、日本の地方自治体は法律を作ることができず、効力の弱い条例しか作れないのに対し、カナダではそれぞれの州が内閣と議会を持っており、法律を作ることも可能です。この点も大きな違いですね。
確かに、カナダでは消費税や教育制度、医療システムなど、州が変われば違いが色々。地方自治がかなり進んでいて驚きます。
まとめ
以上、カナダの政治の仕組みのご紹介でした。
簡単にまとめてみると、このようになります。
- 立憲君主制
国のトップはイギリス連邦国王・女王だが、その役目は総督が担う。実際には政治的な判断は行わず、内閣や議会が権力を持つ。 - 議会民主主義
下院と上院で法案を審議。下院議員は選挙で選ばれるが、上院議員は任命制。下院の第一政党が内閣に、第一政党の党首が首相に選出。 - 連邦制
連邦政府だけでなく、各州・準州にも議会と内閣があり、法律を制定できる。
日本と似ているようで、違っているところが色々ですよね。特に、日本にはない総督という存在は、戸惑う部分だと思います。
政治というと、ちょっと堅苦しくて、取っつきづらいもの。ですが、カナダの政治が少しでも理解できてくると、日々耳にするニュースも、より面白みを感じられるはず!今回の記事がカナダの政治制度の理解に少しでも役立ったら嬉しいです。
最後に。
より詳しくカナダの政治を知りたい方は、ぜひ政府公式ウェブサイトを閲覧してみてください。
カナダの政治、議会システム、国会議事堂内部の詳細な案内の他、先生用のリソースとして、子供にも分かりやすくまとめられたPDFや学習キットなどなど、日本政府のウェブサイトと比べても、その情報量は膨大。しかも、いずれもとても分かりやすくまとまっています。
下記のページなどは特におすすめです。
参考ページ:
www.parl.ca
www.canada.ca/en/government/system/structure.html