カナダのオンタリオ州ミシサガのウォークインクリニックに訪れたカナダ人女性の人種差別発言が、大きなニュースになっています。
「このビルには、白人の医者が一人もいないわけ?」
「私はなんて酷い国に住んでいるの?歯が茶色い『ブラウン』の医者なんかに、息子を診てもらいたくないの!」
「白人のカナダ人の医者を出してよ!」
女性は8歳前後の息子を連れてクリニックに訪れましたが、白人の医師がいないことに怒り心頭。何度も何度も、大声で差別的発言を繰り返していました。
クリニックの待合室にいた男性がこの様子をビデオを撮影。YouTubeに公開されるや否や、あっという間に拡散され、公開から3日後の現在で、再生回数は約60万回を超え、カナダのニュース番組でも大きく取り上げられています。
Video: Woman demands ‘white doctor’ at Mississauga walk-in clinic
この女性にはモザイクがかけられていますが、後姿や横顔からは30歳前後に見えます。こんな若い世代でも、ここまであからさまに差別発言をする人もいるのですね・・。
でも、さすがカナダだなと思ったのが、待合室にいた他の患者たちが、決して無言を決め込むわけではなく、差別発言を繰り返す女性に対し、非難していること。
このビデオを撮影していた男性も、女性に対して注意していますし、1人の若い女性は、
「あなたの言っていることは、無礼極まりないし、人種差別よ!」
と面と向かって、言い放ちます。
それでも問題発言を繰り返す女性は、
「あなたはブラウン、あなたもブラウン!あなたたちは、私が白人だから攻撃しているんでしょう?私が白人だから!」
と、トーンダウンすることもなく、むしろ激高。本当に呆れてしまいます・・
この女性は、息子が胸の痛みを訴えていたため、クリニックに訪れたようです。
最優先すべきは病気の子供のケアであり、医師の人種ではありませんよね。ブラウンの医師が嫌だからと、母親が受診を断っていては、子供は適切な処置も受けられず、完全な被害者です。しかも、自分の母親がこのような差別発言を繰り返しているのを真横で聞いて、この子はどう思うのでしょう。周りからも非難ごうごうで。
「私たちは美しいモザイク社会だ。そこには人種差別も、いじめも、決して許されない」と、学校では繰り返し教わっているのに、自分にとって一番身近な親がこれです。
肌の色も、歯の色も関係ないのに
この女性の主張が、
「英語が話せる人を出せ」
だったのなら、もちろん理解できます。言葉がまともに通じないと、ストレスもありますもんね。特に病院なんかでは、言葉の壁があると、正しい治療すら受けられない可能性だってあるでしょう。子供の具合が悪いのですから、尚のこと、不安は大きかったと思います。
でも、この女性の主張は、「英語が話せる白人医師を出せ」です。さらには、「歯の茶色くない医師を出せ」です。治療を受けるのに、ドクターの人種は関係ありませんよね。もちろん、歯の色だって。。
(さすがに、白人だろうが、ビジブルマイノリティーだろうが、歯が茶色の歯医者さんだと、患者さんからの信頼を失いかねないでしょうけど)
過去にも差別発言を繰り返していた
どうやら、この女性は、今回の差別問題は始めてのことではなく、近所の人たちからは有名な差別主義者だったようです。過去にも何度か差別発言をして、警察沙汰にもなっています。
中には、アフリカンカナディアンの3歳と5歳の子供たちに対して、黒人差別用語である「Nigger」(黒んぼの意味)という言葉を浴びせたこともあったそう。
現在では、N-Wordとして婉曲表現され、決して口にしてはいけないと言われるこの言葉。その昔、新庄選手がメジャーリーガー時代に、コーヒーを飲んで「苦っ!」と発言したら、黒人選手に「Nigger」と勘違いされ、ブチ切れられたというエピソードでも有名ですよね。
こんな差別用語を浴びせる人がカナダにもいるんですね・・。しかも、幼い子供に対してですよ!?
差別がない国だからこそ、関心が集まる?
下記の記事でご紹介したように、実際のカナダ在住者の意見を聞いても、カナダには表立った差別はほとんどないと言えます。
私自身、カナダに住んで約3年になりますが、明らかな差別発言をする人を見たことがなかったので、今回の映像は衝撃的で、とても嫌な気持ちになったニュースでした。
ただ、それと同時に、今回の女性の言動が人々の関心を呼び、大きなニュースになるカナダ社会に安心感を覚えるのも確かです。差別がない国だからこそ、この女性を非難する声が多く集まり、このように大きなニュースとして取り上げられるわけです。
オンタリオ州のキャサリン・ワイン首相も「このような言動、人種差別、憎しみはカナダ社会にあるべきでない」とコメントを出し、カナダ医師会も「マルチカルチャーこそ、カナダ社会の強みだ」とコメントしています。
もともと差別問題に対する取り組みが進んでいるカナダではありますが、今回のニュースで、人種差別に対する問題意識がさらに高まるきっかけになりそうですね。