他国に比べ、差別が少ないとされるカナダ。
前回の記事では、カナダの差別問題について、白人系カナダ人の差別意識の本音をご紹介しました。
https://happybanana.info/?p=9243
先住民に対しては目に見えて差別があると認める一方、対黒人やアジア人に対しては、胸の内に差別意識を持つ人はいても、「表立った差別」はしないという意見が大多数でした。
でも、実際のこところ、表立った差別というのは、どのレベルなのか──?
今回の記事では、ビジブルマイノリティー(非白人)側、主にアジア人の意見を中心に、実際に差別された経験などから、カナダのリアルな差別事情をご紹介したいと思います。
非白人側の意見や被差別経験
早速、意見交換サイトQuoraの投稿より、ビジブルマイノリティーに所属する人の意見をご紹介していきたいと思います。
トロント在住、非白人男性
積極的にシリア難民を受け入れたり、各国の文化を国家レベルで祝ったり、偏見を持った人を見下す文化があるカナダのことを、決して「差別国家」などと呼んではいけません。
でも、「人目をはばかった」差別主義者はいます。なぜ彼らは人目をはばかるのか?それは、カナダ社会が差別的な考え方を認めていないことを分かっているからです。
家族であるイベントに遊びに行った時、無知な女性とそのボーイフレンドが私たちにブーイングを浴びせてきて、会場を退場せざるを得ないことがありました。
でも、その後、沢山の人たちが私たちのところにやって来て、ブーイングをしたカップルに代わって謝罪してくれたのです。
高校時代の先生が、「カナダは、それぞれの信仰や人種に誇りを持ち、他者を尊重する、美しいモザイク文化だ」とよく話していましたが、あのカップルに代わって謝罪してくれた人たちのように、確かにカナダには地域の強い絆があると思います。
しかし、カナダと違って、アメリカには多くの人種差別主義者がいます。
アメリカに訪れる度に、周囲から批判的な目で見られているように感じます。例えば、レストランで食事をしていると、私の食べるものを勝手に決めつけられたり、私が部屋に入ると、年配の人たちはまるで怯えた子犬のような目で私を見て、怖がるのです。
私には、様々な国出身のビジブルマイノリティーの友人がいますが、皆、アメリカに行くと、私と同じような被差別経験があると口をそろえます。
恐らく、アメリカには元々、「上級階級と庶民」という考え方が強い、もしくは、自分たちの上流意識が強いために、差別感情を表面に出しやすいのかもしれません。
アメリカからカナダに戻ってくると、ようやく批判的な視線から解放され、のびのびと息ができるような気持ちになれます。
中国系カナダ人男性
カナダではほとんどの人種が差別を受けることはないでしょう。
中国系カナダ人として長年カナダに住んでいますが、些細な差別ですら、ほとんど受けたことがありません。
トロント在住、東南アジア系カナダ人男性
私は少数民族として、カナダで生まれ育ちましたが、カナダで迫害を受けたり、差別を受けたような経験は一度もありません。
ごくごく一部の人に、少し違った扱いを受けることがありますが、それが本当に人種のせいなのかは分かりません。
学校では「モザイク文化」という考え方を嫌と言うほど教え込まれましたし、多民族化が進み、私のようなビジブルマイノリティーは、少数派と言うよりは、むしろ一般的になりつつあると感じています。
匿名希望
カナダでは、黒人と目が合ったからと言って、銃で撃つような、攻撃的な差別はありません。
でも、カナダには、いかにもカナダ人らしい、「感じが良い」ように装った差別があります。
例えば、移民がよく周りから言われる、「北米での勤務経験がないから、仕事探しが難しい」という言葉。でも、この言葉の真意は、「社員たちがパキスタン人を嫌うから」、こんな感じです。
もちろん、決してそんなことは口にしません。だってそれは、カナダ人が好む「感じが良い」ことではないから。
トロント在住、メキシコ出身男性
これまでカナダに9年間住み、トロントとモントリオールに住んだことがありますが、あからさまな差別は一度も見たことがありません。
有色人種が私一人しかいないような田舎町に訪れても、地元の人たちはフレンドリーで明るく接してくれますし、好奇心はあっても、敵意を抱かれたり、拒否されるようなことはありません。
アジア系カナダ人女性
一部には、「白人こそ本当のカナダ人」と信じている人や、「移民はカナダ生まれのカナダ国民よりも劣っている」と考える人もいます。でも、大半のカナダ人は、そのような差別主義者のことを軽蔑しています。
私自身は、14歳の時にYouTubeに批判コメントを書き込まれ、差別主義者は本当にいるんだと初めて知りました。
多くのカナダ人は自分が差別主義者だとは気付いてもいません。また、例え、差別的な考え方を持っていたとしても、口には出しません。
例えば、同じカナダで生まれ育っているにも関わらず、「どこの国出身なの?」と聞かれたり、アジア人の母親がいるからという理由で、「お母さんは厳しいんでしょう?」とか「ピアノ弾けるんでしょう?」と言われたり。また、時には私がエキゾチックな見た目だからと、デートに誘われたり。
そう、こんな風に、相手は無意識のうちに差別的発言をしてくることがあるのです。
中国系カナダ人女性
私は中国系のカナダ人ですが、高校生の時、先生からの人種差別を感じました。
先生は私の外見から英語が話せないと思ったようで、先生が質問をした時に、私がいくら手を挙げても、気付いていないかのように無視されました。また、クラスの席順で1人づつ答えを言う時も、私の順番だけ抜かされたこともありました。
私はもちろん英語を知っているし、高校在学中に学歴優秀賞を受賞したこともあるくらいなのに。先生の対応は本当にばかげています。
アメリカに比べるとその数は極端に少ないとは言え、このようにカナダでも差別を受けることはあります。また、移民が少ない街では、より差別が多くなりがちです。
でも、大抵のカナダ人は良い人だし、差別的な発言や行為があっても、我慢できるレベルです。
バンクーバー在住、ベトナム系カナダ人男性
ウェストバンクーバーに住んでいますが、年配の白人から非難の目で見られたり、アジア人に対して怒りを覚えている人もいて、「アジア人は全員バンクーバーから出ていけ」というコメントをインターネットで見かけたりもします。
また、娘の学校の遠足で、チャイナタウンに出かけることがありました。
娘の学校はアジア人生徒が非常に多いので、チャイナタウンに行ったところで、特に誰も興奮したりはしません。すると、白人のツアーガイドが、「他の学校の生徒はもっと驚いたり興奮してくれるのに」と言うのです。
チャイナタウンはアジア人にとっては日常生活そのもの。しかし、白人種の人たちは、まるで動物園を覗くかのように、アジアカルチャーを嘲笑っているのでしょう。
バンクーバー在住、中国系カナダ人男性
バンクーバーは特に冷たい都市です。
一般的には、カナダは決して差別国家ではありません。カナダ人は、オープンで平等な国柄を誇りにしています。
しかし一方で、差別を目の当たりにしたり、人から聞いたりするのも確かです。
バンクーバーで住宅価格の高騰が起こり、中国人を目の敵にする人たちも出てきましたし、「中国人は自国へ帰れ」という落書きも見かけます。
私の友人の息子の話ですが、ショッピングモールで友だちと中国語で話していたら、近くの女性に、「あの中国人たちはカナダに来ているくせに、英語もしゃべらない」、と言われたそうです。
彼らはカナダで産まれ育った子たちで、もちろん英語を話します。その女性には、「少なくとも、僕らは先住民を殺しに来たわけではない」と言い返したそうです。
また、自分たちが人種差別主義者でないことをアピールしたがる人もいます。そして、ドナルドトランプ氏を支持する人には怪訝な顔をしたりして。
なぜ無差別主義をアピールするのか──?それは、その方が人として素晴らしいから、です。
でも、差別反対の立場をアピールしていながら、実際は、自分の白い肌に強くこだわり、その優位性を守ろうとしているのです。
ハンガリー出身、匿名希望
私は反ユダヤ主義から逃れ、ハンガリーから移民しました。そのため、カナダに来てからも、差別をとても恐れ、警戒していました。
それでも、この50年間、カナダでは全く差別を感じることはありません。唯一、差別を目にしたのは、アメリカの南カリフォルニアと、デトロイトに旅行に行った時だけです。
カナダでは、警察官からの差別が多少あるように思いますが、一般市民からの差別は一度も見たことがありません。差別に対して、こんなに警戒している私でも、です。
バンクーバー在住、中国系カナダ人男性
カナダにはアメリカのような、白人対黒人の差別問題はありませんが、人種差別がないわけではありません。
中国人の父親は娘が白人男性と付き合うことを嫌いますし、インド人の両親は息子が日本人女子と付き合うことを禁止したりします。
私自身はカナダで生まれ育ちましたが、私の友人の中国人たちは、「白人たちが中国人女性を奪い取っている」と言います。
バカバカしいですが、そんな考え方をする人もいるのです。
私がまだ小さかった1980年代、リッチモンドに住んでいましたが、ある時穴の中にカエルを見つけ、母親と二人で観察していたことがありました。
すると、白人カップルが家から出てきて、「なんて野蛮な!カエルを捕まえて食べようとしている!」と叫んだのです。
私の母親は英語をよく理解しておらず、ただただ笑っていましたが、私はとても恥ずかしい思いをしたのを覚えています。
もちろん私たちはカエルを食べるようなことはしません。でも、彼らは、私たちが野蛮だから、何でも食べると思っていたのでしょう。
このような人種差別は存在してはいますが、カナダにはアメリカのように、攻撃的な差別がないだけありがたいです。
ハリファックスに2年間住んだ、私たち日本人夫婦の被差別経験
私自身は、カナダ東海岸のノバスコシア州ハリファックスに2年以上住んでいます。
ハリファックスと言うと、トロント、バンクーバー、モントリオールといった大都市に比べると、白人率が非常に高く、保守的な考え方を持つ人も多い場所です。
それでも、この2年間、明らかな差別を受けたことは、一度もありません。フレンドリーな人が本当に多い!
でも、「これって、差別かも・・・?」と思うことはあります。
例えば、レジの人が私にだけ「How are you?」や「Have a nice day」といった挨拶をしてくれない、なんてことは良くあります。「クレジットカード作りませんか?」と声をかけて接客している人が、私には話しかけてこないこともあります。
また、これは夫の経験ですが、メトロニュースのフリーペーパーを通行人に配っている人が、毎回自分の前を素通りすると言います。
でも、これらの例の全てが、私たちが日本人だから、もしくは、アジア人だからという、人種が原因だとは限りません。
単に相手は、「こいつは英語が出来なそう」と思っているだけかもしれませんし、自分からもっと流暢な英語で話しかければ、相手の反応は違うかもしれません。
しかも、いずれも攻撃的な差別ではないので、「んん?」とは思っても、嫌な気持ちに至るほどでもありません。
異国で暮らしているというのに、露骨に差別されずに済むというのは、本当に幸せなことですね。移住したのがカナダで良かったな・・・と強く思います。
マルチカルチャーが進んでいない、ハリファックスのような田舎町でもこうなのだから、都会ではよりビジブルマイノリティーへの理解があり、より暮らしやすいのではないかと思います。
まとめ
以上、ビジブルマイノリティー側から見た、カナダの差別問題をご紹介しました。
今回の記事を書くにあたり、偏った意見だけ取り上げてしまわないよう、かなり多くの人の意見に目を通しましたが、明らかな差別にあったことはない、と言う人がほとんどでした。
(私が調べた中で、差別を受けたという人の意見は、全て記事内で掲載しています)
カナダでは差別を受ける心配は、まずない、と言って良さそうです。
ただ、バンクーバー地域では、住宅価格高騰の原因となった中国人に対して、厳しい意見も多くなっているようで、私たち日本人も同じ「アジア人」として、嫌な目に会うことがあるかもしれません。
前回の記事でもご紹介した通り、心の中に差別意識を抱いている人がいるのも確かです。無意識のうちに差別的な発言をしてくる人もいますし、多民族と距離を置きたがる人もいます。
でも、日本とは文化も背景も、まるで違う異国で暮らす以上、多少の扱いの違いは覚悟しなければいけませんし、万一差別されたとしても、気にしないのが一番!
また、私たち日本人にとっての差別は、決して「白人対アジア人」だけではありません。記事の中でご紹介した中国系カナダ人男性の意見のように、アジア人同士でも差別が起こり得ます。
多民族国家カナダに暮らす以上、自分自身もほかの人種や民族への偏見を持たず、自分自身が差別する側にならないよう、気を付けなければいけませんね。