「カナダやアメリカの学校で、子供が怪我をした!」
「お友達に怪我をさせてしまった!」
こんな時、親はどうすればよいのでしょう?そして、学校はどんな対応をしてくれるのでしょう?
日本でも戸惑うことですが、責任所在の考え方が日本と異なる欧米社会では、尚のこと戸惑いが大きいもの。
今回は、実際にカナダの小学校の校長先生から伺った話や、アメリカの法律事務所の情報などを元に、子供同士のトラブルに対する責任の考え方、学校側の対応、親の取るべき対応をご紹介です。
学校で起きたトラブルは学校の責任
まずは今回の話の大前提として、学校で起きた事故やトラブルに対する「責任所在の考え方」を理解する必要があります。
日本では、学校で子供同士が喧嘩して、ケガをさせてしまった場合、学校側にも監督責任はあるものの、基本的には親の責任として捉えますよね。即座に相手の親に謝罪するのが一般的ですし、場合によっては医療費の負担も申し出ます。
しかし、カナダやアメリカを始め、欧米諸国では、学校や保育施設で子供同士のトラブルが発生した場合、基本的には学校側の責任と見なされます。学校側には安全な環境を用意する義務があるため、トラブルが未然に防げた可能性があれば、学校側が安全確保を怠ったと考えられます。
もちろん、状況によっては親の監督責任も問われるので、ケガをさせた側の親が全く関与しない、というわけではありませんが、日本よりも学校側の責任が強く求められる、と考えておきましょう。
暴力行為が発生!学校側の子供への対処は?
では、学校で子供同士のトラブルや暴力行為が発生した場合、学校はどのような対応を取るのでしょうか?
まず、怪我をさせてしまった子供には「タイムアウト」を設けます。
タイムアウトとは、その場から離れさせ、教室やオフィスなどで、何が悪っかたのか、どうしなければいけないのかを先生と話をした上で、静かに反省させる時間です。短時間のタイムアウトで済む場合もあれば、丸一日タイムアウトになることも。
また、暴力行為の度合いによっては、すぐに自宅に帰宅させられ、数日間の自宅謹慎が言い渡されることもあります。
さらに危険度が高いと判断されるケースでは、タイムアウトや謹慎処分以上に厳しい処置が下されます。
私の息子がGrade1の時に、クラスメートA君に顔面を強く蹴られるという事件があったのですが、その時の学校の対応をご紹介しましょう。
A君はまず、危険な暴力行為を起こしたとして、生徒用のデータベースに記録されました。この記録は高校卒業まで残り、新しい学年、新しい学校に入っても、教師が確認できるようになるそうです。
さらに、A君には「授業中以外、息子を含め低学年の子供との接触禁止」という処分も下されました。具体的には、屋外で過ごす自由時間は、低学年用のプレイグラウンドには近寄らせず、高学年用のプレイエリアに連れて行く、など。つまり、A君は休み時間になっても、クラスの友だちとも一切遊ぶことが出来なくなってしまったのです。
親としても、A君にそこまで厳しい処分を課すことに驚きましたが、A君は特別支援を必要とする生徒で、過去にも他の生徒に対して暴力行為を起こしていました。
つまり、息子に対する事件も、カナダの文化で捉えると、「学校が監督責任を怠ったために発生した事件」となるわけです。そのため、今後、同様の事件が発生するのを未然に防ぐためにも、厳しい対処を取る必要があったというわけです。
保護者に対する学校の対応は?
また、学校側の保護者に対する対応は、報告と謝罪です。
まず、怪我をした側、させてしまった側、両方の親に報告を行います。怪我の度合いが軽い場合は、お迎え時などに伝えられることが多いですが、学校の怪我の具合によっては、即座に親に連絡が入ります。口頭だけで報告を済ませる場合もあれば、状況によっては正式なレポートを発行します。
そして、学校の監督責任不足として、校長先生や副校長先生からの直々の謝罪があります。この時、担任の先生からの謝罪というのは基本的にはありません。担任の仕事は教科を教えること。トラブル解決や監督責任というのは担任の仕事の範疇ではないようです。
また、加害者側の親には、誰をケガさせてしまったかは伝えますが、親同士のトラブルを避ける目的で、被害者側には加害者の子供の名前を伝えることは禁止されています。これはカナダだけでなく、アメリカやイギリスなど欧米諸国でも一般的のようです。
怪我の度合や、状況によっては、学校が間に入り、親同士の話し合いの場が設けられるケースもあるようですが、原則、加害者側の親が許可しない限り、名前は明かしてはくれません。
でも、ケガを受けた側の親としては、相手が誰なのかが気になりますよね。相手を知ることで、状況がより深く理解できるかもしれませんし。意思疎通が取れる年齢になると、子供が自ら話してくれるので良いですが、まだ意思疎通の難しい、デイケアなどのお子さんの場合は特に、親はわだかまりが残るかもしれません。
子供が怪我をさせた!求められる親の対応は?
お次は気になる保護者側の対応です。
子供同士のトラブルが「学校の監督責任」とされるのであれば、怪我をさせた側の親の責任は問われないのでしょうか?学校側が加害者の名前を明かないということは、相手の親や保護者は謝罪する必要もないのでしょうか?
この辺りは学校の先生やカナダ人の友人にも聞き回ってみましたが、たとえ学校側の監督責任が強いとしても、責任ある親の行動として、きちんと謝罪するほうが望ましいと考えられるそうです。直接親同士が顔を合わせた際に謝罪したり、連絡先を知っている場合は電話したり、また、子供に謝罪の手紙を持たせて学校で渡すという方もいました。
実際、うちの息子が不慮の事故でクラスメートに怪我をさせられた際は、その子供からは「この前はごめんね。これからも仲良しでいてね」というメッセージカード、そして、その親からも丁寧な長文メッセージを貰ったことがあります。
この辺りはアメリカの事情とも異なり、謝罪文化のあるカナダならではかもしれませんね。
とは言え、実際のところ、謝るか謝らないかは、各家庭の判断次第。必ずしも全ての親が謝るわけではありません。
学校の監督下で起きたことは学校の問題であり、わざわざ親が出て行って謝る必要はないと捉えている人も多くいます。また、アメリカほどではありませんが、カナダも訴訟社会です。事が大きい場合ほど、今後の責任を逃れるためにも、非を認めず、謝罪しない人もいるのが現実です。子供の起こした問題は親の責任とする日本とは、考え方が大きく異なり、戸惑いますよね。
ちなみに、先ほど紹介したA君の事件の際も、相手の親からの謝罪はなし。息子の怪我は傷跡も残らなかったですし、学校側も即座に対処してくれたので、特に気にしていませんが、───それでもやはり、謝罪がないというのはなんだかモヤモヤ・・・。あまり気持ちが良いものではありませんでした。
子供の非を認めて謝罪したほうが、今後もお互い気持ち良く付き合っていけるし、親としても「子供の模範」になるべきでは?──なんて思うのは、きっと日本人的な考え方なのでしょう。謝罪がなかったとしても、ここカナダでは「文化の違い」として受け入れていくしかありませんね。
まとめ
以上、カナダの学校で子供同士のトラブルが起きた場合の、学校側の対応、親の取るべき対応などをご紹介しました。
まとめてみると、こんな感じに。
- 学校で発生した怪我やトラブルは、学校側の監督責任不足
- 被害を未然に防ぐためにも、学校側は暴力行為に対して厳しめの処分を取る
- 相手の親に謝罪するかどうかは、家庭の判断次第
- 学校で起きたことは学校の責任として捉え、謝罪しない親も多い
なお、今回ご紹介した内容は、学校の校長先生から直接聞いた話しを中心にまとめましたが、下記記事の内容も参考にしています。
→参考記事:
What if your child is hurt at school?|The law firms of the Personal Injury Alliance
School Safety 101: Who is Liable for Accidents at School?|Conte & Associates Personal Injury Law Firm Whitby
Who’s Responsible When Your Child’s at School?|Lawyers.com
トラブルの状況や、怪我の具合などによっても、考え方や対応は異なってきますので、もしトラブルが起きて悩んでいる方は、上記の記事もご参考いただけたらと思います。