ノバスコシアからボストンへ100年前の感謝を込めて贈るクリスマスツリー。ハリファックス大爆発とツリー贈呈の理由

更新 | 2016-11-17公開
Boston's Official Christmas Tree located in the Boston Commons with the park street chusrch in the background and an office building

毎年クリスマスになると、ボストンのダウンタウンにある公園に飾られる巨大なモミの木。

実はこれ、カナダのノバスコシア州から、はるばる送り届けられているモミの木なのです。

なぜ、ノバスコシアからボストンにモミの木を贈っているかと言うと――?
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出典:https://www.theodysseyonline.com/

ハリファックス大爆発

モミの木が贈られるようになったきっかけは、今から約100年前の1917年に起きたハリファックス大爆発でした。

ハリファックス大爆発とは、ハリファックス港内で、軍事用火薬を大量に積んでいた船が別の船と衝突し、大爆発を起こした事件です。爆発による衝撃波や火災、そして衝撃による津波により、ハリファックス中心街の大部分が廃墟となりました。

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出典:Wikipedia

津波の高さは18メートルにも達したそうです。爆発がものすごい威力だったことが分かりますね。事故後のハリファックス市内の写真を見ても、一面焼け野原となっています。

 

しかも、事故が起きたのは12月6日。当日の夜は大雪となり、家を無くした多くの人が凍死したそうです。

すぐに救援活動が始まりましたが、多くの消防隊員が爆発により死亡し、消防車も破壊されていたため、近隣の救援隊に頼らざるを得ない状況でした。

しかし、セントローレンス川が凍結していたことから、当時、カナダ最大都市だったモントリオールからの人員や物資の輸送は困難・・・。

その時、いち早く救助に名乗り出てくれたのが、ハリファックスと鉄道で通じていたボストンでした。救援隊や医者、救援物資などを続々と送りこんでくれたそうです。

この事故により、約2,000人が死亡し、約9,000人が負傷していますが、ボストンからの救援が無ければ、死傷者数はさらに増えていたとも言われています。

→ハリファックス大爆発参考データ:Maritime Museum of AtlanticWikipedia 

 

この国境を超えた救援活動に感謝の気持ちを表し、事故が起きた翌年1918年にノバスコシア産のモミの木をボストンに贈りました。

一度だけのモミの木の贈呈でしたが、その後、改めてボストンの支援を人々の記憶に留めるため、そして、ボストンへ感謝を伝えるために、1971年にツリー贈呈が復活。今日に至るまで毎年恒例の行事となっています。

ボストンに贈るツリーの規定

出典:CBC News「Tree for Boston coming from Cape Breton for first time

ボストンに贈られるモミの木は、両都市の架け橋となる重要なものとして、下記の規定があります。

  • 高さ:12~15m
  • Healthy with good colour
  • 農密度:中~高
  • 均一で左右対称

ノバスコシアでは、この規定に該当するモミの木を毎年探しており、ノバスコシア州内で所有する人からの寄付を募っています。

「Tree for Boston」に選ばれることは、非常に名誉あることとされ、ツリーを贈るに至った背景から、多くの人がモミの木の寄付に好意的です。

2016年はノバスコシア州ケープブレトン島のAinslie Glenにある州所有地から、14.3メートルの高さのモミの木が選ばれました。

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ケープブレトンはノバスコシア北部にある、大自然が広がるとても美しい島です。2016年大統領選の前に、「ドナルド・トランプ氏が勝利したら、ケープブレトンへ移住しよう」という地元DJの呼びかけで有名になりましたね。

「Tree for Boston」のセレモニー

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ノバスコシアでは、毎年11月中旬になると、ツリーの伐採から輸送まで、セレモニー行事として開催されています。

モミの木の輸送の際は、ハリファックス市役所前の公園や小学校で、セレモニーが行われます。

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学校でのセレモニーでは、100年前に起きた事故の話、そして、その時にすぐさま救援に駆けつけてくれたボストンの人たちについての話しが行われます。

我が家の息子も、ツリー贈呈式に参加しました。巨大なツリーに興奮するとともに、事故のことやボストンからの救援について知り、「ボストンの人は優しいんだね」なんて、子供ながらに話していました。

ボストンに贈るツリーをきっかけに、国や文化などに関係なく、困っている人がいたら、助け合うという精神、そして、それに対する感謝を忘れない気持ちが、子供たちに受け継がれていくというのは素晴らしいですね。

ボストンコモンに飾られるツリー

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ノバスコシアから贈られたツリーは、ボストンダウンタウンにあるボストンコモンという公園に飾られます。

過去のボストン旅行記の記事にも書きましたが、ノバスコシアから贈られたツリーがどんな風に飾られているのかが見たくて、昨年クリスマス前に、ボストンに訪れた我が家。

実際に飾られている姿は、トラックの荷台に積んでいる時よりも、ずいぶん大きく感じられました。

→関連記事:ボストン旅行記③【フリーダムトレイル編】定番観光地を巡りながら、ショッピングや街の絶景も制覇!

 

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ツリーの後ろには、クリスマスツリーが贈られている背景の説明もありました。

 

出典:http://runningmagazine.ca/

夜になると、イルミネーションが点灯され、しっとりと落ち着いた雰囲気に。とても綺麗ですね。

飾り付けはイルミネーションだけのシンプルなものですが、このツリーが贈られている背景を考えると、穏やかで、優しい佇まいがとても合っている気がします。

総費用は2000万円!?内訳は莫大な広告費

ここで少しだけ現実的な側面もご紹介です。

このツリーの贈呈にノバスコシア州政府がいくら使っているのか、最近のCBCニュースで取り上げられ、話題になっています。

→参考記事:CBC News「Boston Christmas tree gift costs Nova Scotians $242K

 

記事によると、2015年のモミの木贈呈の支出は$242,000(約2,000万円)だそう!すごい金額ですよね。

実際の内訳をみると、ノバスコシアとボストンの地元メディアへの広告費がその大部分を、次いで、ボストンでのツリー点灯式のコスト、運搬費、プロモーション商品などが含まれています。

ノバスコシアの多くの人がボストンには特別な感謝の思いを持ち、ツリー贈呈に誇りを持っているのは確かですが、広告費がメディアに支払う金額として正当なのか、議論にもなっています。

議論によっては、今後のモミの木贈呈の内容も少し変わってくるかもしれませんね。

まとめ

以上、ノバスコシアからボストンへ。毎年贈られている大きなモミの木についてご紹介しました。

事故から100年経っても、このような形で感謝を表し続け、両都市の友好の架け橋となっているモミの木。

支出という現実的な問題はあるものの、贈る側のノバスコシアの人たちも、そして、飾られているツリーを見るボストン人たちも、ツリーを通じて優しい気持ちになれる、素敵な伝統ですよね。

2016年のボストンコモンのツリーは、12/1(木)の夜8時から点灯式が行われます。もしボストン近郊に住んでいる方や、旅行で訪れる方がいらしたら、ぜひ足を運んでみてくださいね。

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