カナダ政府は公約通り、2016年2月末までに、シリア難民2万5千人の受け入れを完了しました。今後も引き続き難民の受け入れを続け、2016年末までに5万人の受け入れをするとも言われています。
息子が通う小学校でも、シリア難民と思われる生徒が入学したり、ボランティアや寄付の募集があったりと、身近でもシリア難民の受け入れが進んでいることを感じています。
今回の記事では、カナダがこれまでに受け入れたシリア難民2万5千人はどこに多く住んでいるのか、国内の難民に対する受け入れムード、また、実際どのような変化が起きているのかをお伝えしたいと思います。
この記事の目次
カナダ国内におけるシリア難民の定住先
2万5千人のシリア難民はカナダのどの都市に定住しているのか?カナダ移民局のHPに、分かりやすい地図がありました。
出典:Citizenship and Immigration Canada
この図は単純に難民数を表しているのではなく、人口10,000人に対するシリア難民の人数を示されています。
やはり、大都市ではシリア難民の受け入れ数が多くなっていますが、人口に対するシリア難民の割合をみると、大都市よりも田舎町のほうが高くなっています。
例えば・・。
オンタリオ州のシリア難民の割合
出典:Citizenship and Immigration Canada
オンタリオ州は、カナダ全体の中で最も多くのシリア難民を受け入れている州です。
2016年3月現在、オンタリオ州の中でも、最もシリア難民の受け入れが進んでいる都市はやはり大都会トロント。その受入数は約3500名にも及びます。ただ、トロントは人口260万人と、大きな都市であるだけに、上記図を見ても、人口比で見るとシリア難民の割合は低くなっています。
オンタリオで難民の割合が一番高くなっているのは、トロントから車で1時間ほど北上したThorntonという村。Thorntonは、人口1000人程度の小さな村落ですが、13人の難民受け入れを行ったため、このように割合が高くなっています。
BC州のシリア難民の割合
出典:Citizenship and Immigration Canada
BC州でも、シリア難民の受け入れは進んでいて、その中でも最も受け入れ数が多いのはバンクーバーです。その数は2016年3月現在、約1500人ですが、バンクーバーの人口60万人に対しては、やはり難民の割合は低くなっています。
BC州の中で最もシリア難民の割合が高くなっているのは、バンクーバー島にあるCowichan Bayという町で、やはり人口の少ない田舎町です。人口に対するシリア難民の割合は1000人中50人です。
東海岸アトランティックカナダにおけるシリア難民の割合
出典:Citizenship and Immigration Canada
東海岸三州においてもシリア難民の受け入れは進んでいます。
2016年3月現在において、ノバスコシア州ハリファックスで約750人(割合:17/10,000人)、ニューブランズウィック州フレデリクトンで約450人(割合:80/10,000人)、プリンスエドワード州シャーロットタウンで約200人(割合:58/10,000人)の受け入れが完了しています。
田舎のほうでは難民の割合が高まっているとはいえ、100万人を超す難民が押し寄せているヨーロッパや、人口100人の村に難民750人が定住するというドイツの驚愕のニュースがあったことを考えると、、、カナダにおいては、全体的には人口に対するシリア難民の割合は非常に低いと言えると思います。
シリア難民受け入れに対するカナダ国民の意見
カナダ国内のシリア難民に対する意見は、ほぼ半分に分かれています。
カナダ政府が2万5千人の受け入れを発表した当初は、カナダ国民への世論調査では51%の人が移民の受け入れに賛成するという結果が出ていました。そのうち28%は、より多くのシリア難民を受け入れるべきだという意見もありましたが、ヨーロッパで起きているような治安への懸念や、経済的に大きな負担となる問題もあって、49%は否定的な意見でした。
新たなアンケート結果が2月中旬に出ましたが、実際に移民の受け入れが進み始めてからも、カナダ国民の意見にはさほど大きな違いは生じていないようです。賛成派が若干増え、52%のカナダ人が受け入れに賛成を表明しています。
出典:Angus Reid
人口に対するシリア難民の割合が低いこともあってか、治安悪化の問題が顕著に現れているヨーロッパとは違い、今のところカナダでは大きな問題も起こっておらず、暖かい歓迎ムードに包まれているように感じます。
行政によるシリア難民サポート体制
出典:cbc news
ノバスコシアでは、もともと政府支援の難民に対しては、生活費用のサポートとして、一家族あたり住居費用として月620ドル、大人一人当たり生活費用月238ドルが支給されているようです。また、子ども手当も利用できるために、子ども一人あたり300ドル程も支給されます。これらの生活補助金が引き続きシリア難民に適用されているようです。
Families receive $620 a month for rent. That number is standard — it doesn’t change whether the family has three members or 12.
As well, each adult receives $238 a month for food and goods. Children receive no money up front, but qualify for the child tax benefit, which is around $300 a month.
出典:CBC
また、もともと移民の国だけあって、州の移民サポート団体では、新移民向けの無料のサポートプログラムはいろいろと提供されていましたが、英語や雇用斡旋、心身サポートのプログラムがより充実してきています。
公共図書館においてもでは、子供向けのレクリエーションプログラムや、コンピューター、ヨガ、就職サポートなど、いろいろなプログラムが無料て提供されていますが、今年に入ってから英語系のプログラムが増えました。
例えば、下記3つのプログラム↓。
これらは、新移民となった子どもから大人向けに、毎週英語学習のサポートを行うというプログラムです。もちろん無料です。案内の中には、「Refugee(難民)」という言葉は入っていませんが、昨年まではこのようなプログラムはなかったので、シリア難民の方を意識しているプログラムだと思われます。
子ども向けの英語サポートプログラム、これはありがたいですよね。毎週土曜に開かれているようですが、このようなプログラムがあれば、言語習得だけでなく、友人を作るきっかけにもなって現地生活への順応も早まると思います。
また、図書館の英語の参考書や問題集が置いているコーナーなどでは、「Welcome Newcomers」の張り紙が見られるようになり、難民の言語サポートをしようとしている意図を感じます。
市民によるシリア難民サポート体制
行政によるサポート体制だけでなく、市民によるボランティアや寄付も進んでいます。
ニュースなどを見ていると、シリア難民のサポートのためのボランティアに関する記事をよく見かけるようになりました。カナダ全体でもかなりの数のボランティアが集まったようで、ボランティアの空き待ちすら発生している地域もありました。
ノバスコシアでも2000人近くのボランティア希望者が集まったようです。ノバスコシアが2016年末までに受け入れようとしているシリア難民の人数は1500人となっているので、つまり「難民の人数以上のボランティアが集まった」ということになり、いかに多くのボランティアが集まっているかが分かります。
出典:isans
また、IKEAカナダがシリア難民に180,000ドルの家具の寄付を申し出るというニュースもありましたが、ハリファックスでも寄付品の回収所がオープンし、多くの市民が洋服や生活用品などを提供していました。予想以上に多くの寄付品が集まったとして、当初の予定よりも2ヵ月近くも早くに閉設されました。
出典:ノバスコシア州HP
このようなボランティアや寄付が押し寄せるという記事を見ていると、さすが移民の国カナダ、カナダ人がシリア難民をいかに暖かく受け入れているかがわかります。
今のところシリア難民受け入れに伴う治安悪化、情勢不安定などが起きていないのも、市民や行政のサポート体制が充実しているからこそ、と言えるかもしれません。
シリア難民受け入れへの懸念
カナダ国内は今のところシリア難民の歓迎モードに包まれていると言えると思いますが、やはり反対意見もあります。
たった4か月で、2万5千人もの難民をセキュリティスクリーニングするというのは、十分なチェックができているのかという不安視もされています。先ほどと同じ世論調査結果でも、スクリーニング検査検査への不安を抱く人が多くなっています。
出典:Angus Reid
通常の移民向けプログラムでは長期間かけて要件チェックや、バックグラウンドチェックを行っており、1年、2年、中にはそれ以上もの年月を待っている人がいることを考えると、やはりたった4か月で2万5千人という数は、何かしらの漏れが発生するのではと思います。
特に、2015年11月に発生したパリ銃撃事件の襲撃犯の一人がシリア難民として入国した人物であったことなどを考えると、テロ犯罪や情勢の不安定化を懸念する人が多いのも事実です。
また、政府による生活費補助のサポートは最大1年間と期限付きです。たった1年でシリア難民が経済的に自立することができるのかは疑問です。そのため、行政による経済的支援がなくなったときこそ、治安悪化の問題などが表面化するのでは、という懸念もあります。
まとめ
以上、カナダのシリア難民の受け入れ状況と、行政や市民の受け入れなどについて、個人的に感じた変化とともにまとめました。
カナダ政府は、難民を受け入れることで、カナダの人口減少を食い止めることができるし、将来的にはカナダ経済を支えてくれるようにもなると主張しています。カナダ国民の感情は、大多数とはいかないものの、およそ半数が難民受け入れに賛成的な意見を持っており、実際に市民レベルの支援も進んでいる状況です。
国民への経済負担や治安悪化といった懸念を考えると、とても難しい問題ではありますが、個人的にはシリア難民の受け入れには賛成です。
昨年、移民向けESLに通っていた頃に、難民だった人たちと出会う機会がありました。彼らはカナダに逃れてくるまでは、紛争や襲撃の中で生活していたり、迫害に合ったり、毎日死と直面しながら生きていた人たちでした。ニュースの中の世界でしかなかった内戦や紛争の話題が、同じ学校に通っている彼らから直接話しを聞くというのは、とても衝撃的でしたし、彼らから聞いた話を思い出すと、やはり国民への経済的負担があったとしても、難民の受け入れ、人道的支援は必要だなと思うようになりました。
また、私もカナダに移民として受け入れてもらえた身ですが、移民サポート団体だけでなく、街で出会う人、身近な人からも、差別などもなく、暖かく受け入れてくれていることに、本当に感謝しています。自分自身の経験からも、シリア難民の人たちが心穏やかにカナダ生活を送ることができるよう、暖かい受け入れ体制で迎えたいと思います。
※2016/4/4更新※
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