英語とフランス語の二か国語を公用語とするカナダ。
学校教育でも、この二か国語の習得に非常に力を入れており、幼稚園の頃から、主にフランス語で授業を行う「フレンチイマージョン」と、主に英語で授業を行う「イングリッシュプログラム」が用意されています。
子供が幼稚園に入学する際に、どちらのプログラムの学校を選ぶか、選択を迫られるわけですが、今回は2回に分けて、カナダ公立学校の言語プログラムについてご紹介したいと思います。
1回目の今回は、イングリッシュプログラムとフレンチイマージョンの特徴や、フレンチイマージョンのメリットについて。2回目はフレンチイマ―ジョンに入れる前に考えておきたい問題点や不安点などをご紹介です。
カナダ公立学校のフレンチイマージョン②考慮すべき問題点やデメリットは?
この記事の目次
English Program、French Immersionとは?
まずは、フレンチイマージョンと、英語プログラム、二つのプログラムについて見てきます。
カナダでは公用語が二か国語に定められていることもあり、どの州でも、幼稚園から高校まで「English」(通常プログラム)と「French Immersion」の2種類の言語プログラムの学校が用意されています。
どちらの言語プログラムを選ぶかは、親や本人の希望次第。ただ、地域によっては、フレンチの人気が非常に高く、先着順や抽選などもあります。
イングリッシュプログラム(コアフレンチ)
もしEnglishプログラムを選べば、学校の授業は英語で行われます。フランス語は「教科」として教えており、「コアフレンチ」とも呼ばれています。
プログラムの内容は、州や地域のスクールボード(教育委員会)によってかなり異なりますが、小学校低学年のうちは、完全に授業は英語のみで進み、小学校3-4年生からフランス語の教科が始まる地域が多くなっています。また、中には幼稚園部や小学校1年からフランス語のレッスンが始まる学校あります。
フレンチイマージョンとは?
一方、フレンチイマージョンは、教科をフランス語を使って教えるプログラムで、授業のほとんどがフランス語で行われます。
英語を母国語とする人でも、フランス語を母国語と同程度まで習得できることを目標に、1970年代からカナダ全土で導入され、すでに50年ほどの実績があるプログラムです。公立学校で導入されているプログラムなので、費用はもちろん無料です。
授業で使われる英語とフランス語の割合は、やはり州や地域のスクールボードによって大きく異なりますが、その多くが、幼稚園から小学校低学年まではフランス語オンリーで進め、小学3~4年生から英語を使った授業も取り入れています。中には、低学年の頃でも20%程度は英語が入る地域や、数学、体育、音楽などの授業は英語で行う地域もあります。
また、授業以外でも、先生との生徒の会話はフランス語です。高学年になるほど、友だち同士の会話もフランス語で行うよう指導されます。
親のフランス語力は問わない
「フレンチイマージョンに入れたくても、子供の宿題が手伝えない・・」
そんな悩みもありますよね。でも、フレンチイマージョンプログラムでは、親のフランス語力は問わないとされています。先生と親のコミュニケーションは英語ですし、宿題も親のサポートが無くても出来るよう工夫されています。
それでも、実際のところは、親のどちらかがフランス語ができ、子供のサポートができるのが望ましいのは確か。中には、親がフランス語が分からないからと、フランス語の家庭教師をつけている家庭もあるくらいです。
入学できるタイミング
フレンチイマージョンはいつでも入学できるわけではありません。入学できるのは基本的に下記の3つのタイミングのみ。
- Early Immersion: 幼稚園、もしくはGrade1(小学1年生)
- Middle Immersion: Grade4~5(小学4~5年生)
- Late Immersion: Grade6~8(中学部)
Early Immersionのように、幼少期から始めるほうが、より自然に、ネイティブに近い発音で言語能力が身につくと言われていますが、もちろんMiddleやLate Immersionから始めても、十分フランス語の習得は可能とされていて、Late Immersionから始めて、仕事でフランス語を使いこなしている人もいます。
また、フレンチイマージョンに入学したからと言って、ずっと通い続ける必要はありません。授業についていけないと思えば、いつでもイングリッシュプログラムに編入することができます。
フレンチイマージョンに通う生徒の割合
フレンチイマージョンに入っている生徒の割合は、年々徐々に増えていますが、2016年のカナダ全土平均では9%。人気があるとはいえ、まだまだ少数派ですね。
州別にみると、こんな感じ。やはり東海岸のほうが割合が高めです。
フレンチイマージョンに通う生徒の割合(2015-2016) | |
ブリティッシュコロンビア | 9.6% |
アルバータ | 6.5% |
サスカチュワン | 7.9% |
マニトバ | 13.0% |
オンタリオ | 12.3% |
ニューブランズウィック | 20.1% |
ノバスコシア | 12.7% |
プリンスエドワート島 | 24.4% |
ニューファンドランドラブラドール | 15.3% |
ユーコン | 12.8% |
ノースウェスト | 10.0% |
Statistics Canadaの情報を元に計算しました
カナダ全土では少数派のフレンチイマージョンですが、日本人家庭は割と多くの方がお子さんをフレンチイマージョンに入れているように思います。やっぱり教育熱心な方が多いんでしょうね。
ただ、ノバスコシア州とニューファンドランドラブラドール州を除き、高学年に進むにつれ、フレンチイマージョンから英語プログラムに移る生徒が多くなっています。(詳しくは次回の記事にて)
フレンチイマージョンのメリット
フレンチイマージョンのメリットは下記の5つが挙げられます。
- フランス語を習得できる
- 英語力・数学・科学の学力は劣らない、むしろ英語プログラムの生徒に比べても高まる傾向がある
- コミュニケーション能力が高まる
- 将来の可能性を広げる
- 公立学校でも教育熱心な家庭が集まる
1、4は言わずもがな、ですが、驚きなのが2つめのメリット。科学や数学だけでなく、英語力に関しても、フレンチイマージョンの生徒のほうが高い傾向があるという点です。
フレンチイマージョンに通っていても、結局、学校以外は英語環境です。日々英語を使用して暮らしているので、英語の能力が劣ることはないそうです。また、最近の研究では、第二言語を学ぶことで、母国語の言語能力も高まることが分かってきています。
実際、フレンチイマージョンの生徒の英語の言語試験の成績は、イマージョン以外の生徒と比べても、高いくらいです。ちょうど先日も、フレンチイマ―ジョンの生徒のほうが成績が高かったというニュースがありました。
英語科目の試験で良い成績を収めた生徒の割合 | |
フレンチイマージョン | 94% |
イングリッシュプログラム | 74% |
参考記事:French-immersion students score much higher on English tests than core students
ニューブランズウィック州での調査結果なのですが、Grade9の英語科目の試験結果を比べたところ、非常に良い成績だった生徒の割合は、フレンチイマージョンの生徒のほうが大幅に多かったそうです。
上記は「英語科目」のみの結果ですが、色々な研究機関の調査で、数学や科学の結果も、フレンチイマージョンの生徒のほうが学力が高いという結果が出ています。
参考記事:TEACHING MATH IN FRENCH IMMERSION PROGRAMS Compiled December 2015
フレンチイマージョンは本当に魅力的?
公立学校の無料プログラムでバイリンガル教育が受けられるだけでなく、生徒の英語力、科学、数学の学力も高い───
このようなメリットを見ると、フレンチイマージョンに入れない手はないように思えます。
実際、フレンチイマージョンの人気はとても高く、定員を上回って抽選や先着順になる地域もあります。人気のある学校だと、申し込み日の前日から並ぶそうですよ!親にとっては、子供をバイリンガル、トリリンガルに育てたいという思いは、誰しも同じですもんね。
でも、本当にフレンチイマージョンは子供にとって正しい選択と言えるのでしょうか??
次回の記事では、カナダのフレンチイマージョンに入れる前に考えておきたい懸念や、メリットの裏側にある問題などについて考えてみたいと思います。