夏休みが終わりに近づくと、親子ともに頭を悩ます、大量の宿題。でも、ひとたび海外に目を向けると、夏休みが2か月以上もあるのに、宿題が一切ない国ばかり。
『2か月間も遊びほうけて大丈夫なのか?!』と不思議に思いますが、国際的に見ても、夏休みの宿題がないからと言って、学力が低いというわけでもなさそうです。
今回は、海外の夏休みの宿題事情から、宿題と学力の関係や、夏休みの勉強の意義などについて、真面目に考えてみたいと思います。
この記事の目次
夏休みの宿題がない国
まずは、世界各国の夏休みの長さや、宿題のあり/なしを見てみましょう。
上記は外務省が発表している各国の教育事情や、各国の教育省のHP、個人のHPなどを元に、情報をまとめたものです。同じ国内でも、学校や地域により、多少の違いはありますが、基本的には上記のような結果になっています。
夏休みは6週間~3か月と、日本よりも長い国ばかり。それなのに、宿題がない国が多いことに驚きます。
筆者が住んでいるカナダでも、やはり宿題は一切なし。夏休みが学年の区切りにあたることも、宿題がない理由の一つだと言われますが、そもそも、冬休みや春休みにも宿題はありません。「長期休暇は休むもの」───そんな認識が当然となっています。
夏休みの宿題は学力に影響する?国別学力ランキング
でも、夏休みが2か月や3か月も続き、その上、宿題も出ないだなんて、学力は落ちないのでしょうか?OECD(経済協力開発機構)が発表しているPISA学力調査の結果を見てみましょう。
PISA学力調査は、世界72か国・地域の15歳の生徒約54万人を対象に、3年ごとに実施されているものです。宿題がある国を黄緑、宿題がない国を水色で囲みましたが、宿題がある国ほどランキング上位に入っていますね。
学力に影響するのは宿題よりも、教育の質や熱心さ?
ただ、この学力ランキングの結果は、必ずしも夏休みの宿題の成果が直結しているとは言い切れません。上位にランクインしているシンガポール、香港、台湾などは、もともと教育熱が高いことで有名です。
学力ランキング1位シンガポール
例えば、数学、読解力、科学、3分野全てで1位になっているシンガポール。
シンガポールは教育熱心な家庭が多いだけでなく、教育レベルは世界トップと言われています。驚くことに、小学校にも卒業試験が用意されているくらい!
この試験は全児童が受験必須。小学校卒業の可否や、進学先の中学校が決定するそうです。
イタリアとフランス
一方、ヨーロッパでは珍しく夏休みに宿題が課されるイタリア。大量の宿題が出るそうですが、学力ランキングで見ると、宿題が一切出ないお隣フランスよりも下位に入っています。
フランスは夏休みだけでなく、日頃から宿題はほとんど無し。それでも、ヨーロッパの中では教育に対する姿勢は熱心なほうだと言われており、長期休暇中は自主的にワークブックを購入して取り組んだり、大量の読書をして過ごすそうです。
このように、学力ランキングの結果は、夏休みの宿題以前に、学校教育の質や、日頃の取り組み姿勢、家庭の教育熱心さなどが影響していると言えるのではないでしょうか。
教育熱心だからこそ、長期休暇にも宿題が課せられるわけですし、夏休みの宿題は、数ある教育熱心な取り組みの一つに過ぎませんね。
宿題がない代わりに「読書」
海外の夏休みには宿題がないと言っても、アメリカを始め、多くの国で子供たちに課せられるものがあります。
それは、読書!
「目標○○冊」、「読書記録を提出」──というような義務こそありませんが、できるだけ多くの本を読むことを推奨している国が多くなっています。
特に、2006年のPISA学力調査で世界1位に輝き、その後も高い学力を誇っているフィンランドも、宿題は無い代わりに、読書が非常に重要視されています。
実際、フィンランドの子供たちには読書習慣が根付いており、『読書を趣味』とする生徒の割合は41%と、世界で最も高い割合だそう。
→参考情報:苦楽園読書クラブ「学力世界一フィンランドの秘密」
日本では、夏休みに大量の宿題が出るものの、その中で読書が占める割合は少ないですよね。
自分自身の遠い記憶を辿っても、「課題図書の中から1冊読んで、読書感想文を書くこと」くらいだったような気がします。
読書が好きだったわけでもなく、言われたことしかやらない性格だったので、、、長い夏休みにもかかわらず、読んだ本は1冊のみ。そして、それさえも苦痛に悶えながら、読書感想文を書き上げたものです。
読解力世界3位のカナダも読書を重視
他の欧米諸国同様、夏休みの宿題が全くないカナダ。
私立の学校は少なく、多くの子供が公立の学校に通っていますが、のびのびとした教育方針ですし、塾もほとんどありません。日本の子供たちに比べると、その勉強量は圧倒的に少ないと言えます。
しかし、カナダの学力レベルは高く、先ほどのPISA学力ランキングでは、欧米諸国の中でトップを誇っています。特に読解力は非常に高く、シンガポール、香港に次いで、世界3位。
この結果は、公立学校の教育水準の高さもあると思いますが、やはりそこには「読書」が少なからず影響しているように思います。
私の息子も公立小学校の2年生ですが、日頃の宿題は基本的に読書のみ。毎日学校からレベル別リーディングの本を1-3冊持ち帰り、音読するのが日課です。
また、夏休みも宿題が出ない代わりに、先生からは「たくさん読書しましょう」と言われます。
『夏休み中の読書数が秋からの成績に影響する』という研究結果の元、毎年夏になるとカナダ全土の図書館で、「Summer Reading Club」なるものが発足し、夏休み中に子供たちに読書を推進する活動が積極的に行われています。
息子も毎年このSummer Reading Clubに参加していますが、自分で設定した目標読書数に達成すると参加賞がもらえるため、1日3冊を目標に、やる気を出して読書に励んでいます。
このように、フィンランド同様、読書を重視する教育方針こそが、読解力の高さ、強いては、学力の高さにつながっていくのかもしれません。
カナダの子供の読書事情については、別記事で詳しく紹介しています。
大切なのは受け身ではなく、自発的な勉強
出典:debate.org
ところで、海外の夏休みの宿題に対する世論を見ると、上記のように、8割以上が宿題反対派です。
反対派の意見の多くが、「夏休みくらい、勉強から解放されるべき」という理由なのですが、中には───
夏休み中は、自分の興味を追求するための時間。大量の宿題が課されてしまったら、子供が自分で読みたい本を読んだり、興味のあることに没頭する時間が奪われてしまう。
このような主張をする人もいます。
確かに、毎日宿題に追われるりも、はたまた、昔の私のように課題図書に選ばれた本の読書感想文を苦しみながら書くよりも、自分の興味の沸く本をどんどん読み進めたり、自分の好きなことを調べるほうが、よっぽど楽しく、身につくものも多そうですよね。
私の息子も、私に言われて勉強する時は、集中力もなく、それはそれは嫌々そうにこなすのですが、、、自分が気になることを調べているときは、目がキラキラ。
この夏休みも、ほとんど勉強はしていませんが、宇宙のことが大好きなので、毎週図書館で10冊以上宇宙の本借りてきては読みふけり、見事、宇宙オタクへと成長しました。
火星の地理を得意げに教えてくれる姿を見ると、受け身の宿題や勉強よりも、こういう自発的な勉強こそが大切なのだと、改めて思い知らされます。
勉強の遅れは大学で取り戻す?
それでも、いくら読書をしていたとしても、そして、時には、自分の気になることを自発的に調べたとしても、長期休暇中にコツコツと勉強を続けた子供と、そうでない子供の学力の差はどうしても開いていくでしょう。
しかし、長期休暇だけでなく、日頃の宿題すらあまり出ることがない欧米諸国でも、高校生や大学生にもなると、将来の目標に向かって必死になって勉強します。
特に、大学生の勉強に対する姿勢は、日本と比べると天と地の差。
日本の大学生の7割が1週間の勉強時間が5時間以下であるのに対し、アメリカでは11時間以上勉強する人が6割もいます。良い成績を収めようと思えば、1週間当たりの勉強時間は40時間にも及ぶそう。
→参考情報:Campus Hub「大学生の勉強事情|平均学習時間は?アメリカとの違いは?」
例え、高校時代までに学力の差が開いていたとしても、この大学時代の圧倒的な勉強量で、これまでの差を一気に取り返すのでしょうね。
世界のトップ大学ランキングはアメリカとイギリスの大学ばかりが占めていますし、世界的な優良企業も、欧米諸国に多く存在してます。もちろん、勉強熱心なアジア圏にも、多くの優良企業が存在していますが。
日本では知名度の低いカナダの大学も、世界的には東大、京大を上回る大学が多くあります。
また、2000年以降のノーベル賞受賞者の国別ランキングを見ても、1位は72個とぶっちぎりでアメリカ。2位は16個のイギリスとなっています。
この結果には、大学の研究費や人口比率なども大きく影響しているとは言えますが、少なくとも、学力の高さもノーベル賞受賞が多い要因の一つには違いありません。
どうせ遊ぶなら、子供のうちに思いっきり!
このように、世界の子供たちの夏休みは、宿題に追われることなく、毎日遊びに夢中になって過ごしている一方で、大学生ともなると、遊ぶ暇もないくらいの勉強が待っています。
つまり──
欧米諸国
小さい頃はあまり勉強をせず、ひたすら遊び、色々なアクティビティを体験する。高校生や大学生になると、将来に向けて必死に勉強する。
日本
小さい頃から宿題に追われ、休みも関係なく必死に勉強する。大学生になると勉強から解放され、旅行や色々なアクティビティを謳歌する。
こう考えると、なんだか、バランスが取れているのかもしれませんね(笑)
でも、小さい頃の遊びこそ、好奇心や想像力が培われ、協調性や積極性と言った人間力も養ってくれるもの。どうせ遊ぶのなら、小さいうちに思いっきり遊んだほうが良いように思います。
おわりに
さて、今年の夏休みも、私の息子は、興味のある本こそ読んではいますが、ほとんど勉強することなく、毎日遊んで過ごしています。
多少のワークブックなどはこなすものも、日本の子供たちがこなしている勉強量と比較すると、雲泥の差。これがカナダの子供の夏休みなのだと思いつつも、親としては、やはり不安に駆られるのが、正直なところ・・・。
「これで大丈夫!」
そう自分を納得させる意味で、今回の記事をまとめるに至りました(笑)
最後に、そんな私を勇気づけてくれる、脳科学者の茂木健一郎さんの言葉を紹介して、記事を終わりたいと思います。長い記事に最後までお付き合いくださり、どうもありがとうございました!
夏休みの本質は、ぼんやりすること、ほうけることだと思う。ふだんとは違うことをやって、ぼーっとする。そのことが夏休みの価値であって、学期と同じようなことをやるのは、夏休みの趣旨に反している。夏の間は、みーんみーん、ジリジリとぼんやりしていて、新学期とともに「はっ」とするのが良い。
— 茂木健一郎 (@kenichiromogi) 2014年8月7日
そう考えると、夏休みの宿題というのは実に邪魔なものであって、そんなものは要らないと思うのである。思うに、あれは、子どもが遊んでいると不安だという保護者の気持ちと、学校の事なかれ主義が結託した、中途半端で意味のない悪弊であろう。夏休みの宿題を全廃することを主張するものである。
— 茂木健一郎 (@kenichiromogi) 2014年8月7日
『赤毛のアン』の主人公のアン・シャーリーは、ギルバート・ブライスと張り合って実によく勉強するが、夏休みは遊んでぼんやりしている。『赤毛のアン』には、新学期到来とともに、「はっ」と気付いて、勉強に励むアンの姿が見事に描かれている。子どもにとって、夏はぼんやりすべき季節だろう。
— 茂木健一郎 (@kenichiromogi) 2014年8月7日
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